水戸ホーリーホックはなぜ躍進したか~素人目の結果論分析~

初めに

J2の水戸ホーリーホックが快進撃中だ。現在5連勝中、13戦負けなしでとうとうプレーオフ圏の4位に入ってきた。
既に話題になっている通りツートップの攻撃力が目を引くが、それだけでは説明できるものではない。ここでは水戸がどのようにして近年にない結果を出しているかを考察してみたい。

前提:J2中位以下のチームのネックはラストパスの精度が悪い

これはネットでは良く言われていることで、J2で苦戦するチームは大体がフィニッシュの精度が悪いという以前にラストパスの精度が悪い。特にサイドから早い攻めで崩しておりバイタルエリアターゲットマンもいるのにセンタリングが明後日の方向に…というのは良く見かける光景である。逆に言えば真ん中でターゲットマンをしっかりケアしていればサイドの崩しが脅威になる回数は実は少ない。

守備

8人でしっかりボックスを作って守る水戸の守備

今年の水戸の守備が安定しているのは、基本といえば基本であるがこのしっかりボックスを作ってゾーンで守る守備が非常に機能しているからだ。サイドに展開されてもそんなにプレッシャーはかけにいかず、中をしっかりケアしている。名古屋のようにサイドからのクロスの精度に加え中にシモビッチのような仕事人がいるとぶち抜かれるが、そこまで強力なオフェンスを持つチームはJ2にはそこまで多いわけではない。結果としてしっかりボックスを作れる余裕があれば失点することは早々ない状態になっている。加えて今年はさらに守備を固めたい時には早めのパウロン投入で5バックという選択肢があり、この場合4バックよりもサイドをケアしやすくなり更に盤石な守備を敷くことが可能だ。今年序盤まではちょくちょくあったボックスを作ったまま押し込まれて下がりすぎボックスが機能不全になる悪癖もここしばらくはあまり出なくなっていることは加えて特筆しておきたい。

前から走力でボールを奪う早い守備

こちらはもう言わずもがなである。前田の走力を生かし、他の前3人がそれをフォローすることで前からボールを奪いに行く。この形から決勝点を奪ったシーンも多い。また攻守の切り替えの際に前田を中心に遅らせて上で書いたボックスを作る時間を稼ぐ。前田以外にこんなことができる選手はそもそも多くないので本当に前田様様ではある。個人的には五輪に出ていたころの永井謙佑を思い出させてくれて楽しい。

攻撃

バイタルエリアの外で勝負できる攻撃陣

上で書いた前提は水戸の攻撃にも言えることで、特に柱谷監督の末期はラストパスの精度に泣かされてきた。今年の水戸の攻撃陣が大きく違うのはこの部分である。バイタルエリアの外でDFと対峙した時に安易に中に放りこむ率が減り、勝負する選手が増えた。前田、林のツートップは言わずもがな、サイドの白井や外山もドリブルで突っかけることができる。最近ではサブに甘んじてはいるが湯澤もドリブル突破が持ち味の選手である。選手個々の能力が必要ではあるものの、「バイタルエリアに侵入しフィニッシュまで持ち込む」というシンプルな攻めは結果的にカウンターを食らう回数も減らしているといえるだろう。

勝利のためのアクセント、佐藤和弘の覚醒

ここまでの要素は「負けない」という部分の大きな要素だった。だがここに来て連勝できているのは佐藤和弘の力によるところが大きい。なぜなら連勝に入ってからの彼は相手からのプレッシャーがない位置という前提はあるものの「ラストパスの精度」が非常に高くなっているからだ。また枠にきっちり飛ばすミドルシュートもあり、ドリブルに偏重しがちな攻撃に大きなアクセントをつけている。セットプレーも含めて彼のキックが精度を維持できるかは今後どこまでチームの勝ち点を伸ばせるかのカギになるだろう。

後半戦に向けて

とは言うもののそんなに甘い話ではない

そろそろ前半戦も終わりだが、ここまでの戦績を見ると興味深い。1位~11位までのチームとの対戦成績は2勝5分3敗。12位~22位までのチームとの対戦成績は7勝2分1敗である。さらにいうなら7位以上のチームには1勝もしていなかったりする。後半戦において上位対決でいかに勝ち点を積んでいくかは大きな課題となるだろう。無論今まで通り下位相手に取りこぼさないことは前提である。水戸の選手層を考えれば夏にかけて怪我人を出さないことは何より大事になるだろう。補強は望めない(むしろ引っこ抜かれる側なので)がセンターラインで力を持った選手が欲しいところだ。

終わりに

水戸はJ2の中でも特殊なチームである。J1ライセンス取得の目途が立たないためJ1を目指した強化はできず、J1を目指す選手はシーズン途中で抜けていく。そんな中で熱意をもってチームを作りあげている沼田社長以下フロント、西ヶ谷監督以下スタッフの方々には心から感謝したい。その積み上げてきたものの具体的な形として今チームは連勝記録でついにクラブタイに並び、まさに歴史を作ろうとしているところだ。たとえ記録が途切れたとしても今年の水戸が歴代でもトップクラスであることは間違いない。何より見ていて楽しいサッカーをしているのがサポーターとしてうれしい限りだ。今のチームをもっと多くの人に現地で見てほしいと思うのは自分だけではないと思う。水戸ホーリーホックに興味を持った人がいればぜひKスタに足を運んで選手たちに大きな声援を送ってほしい。シーズン最後にプレーオフ圏に入ることができればそれはたとえJ1に上がれないとしてもチームにとってもサポーターにとっても大きな財産になるだろうから。