ゴーメンガースト

今更書くのもなんだかという感はあるけど。

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

ゴーメンガースト (創元推理文庫―ゴーメンガースト3部作)

どことも知れない城ゴーメンガーストの当主グローン伯タイタスの成長と彼の周囲の人間を描くゴーメンガースト三部作の第二部です。
まずこのシリーズの面白さは世界観につきます。世界のどこかには違いないのですがそのどこでもなく、外ともまったく違う文化と文明を持つ隔絶された空間であるゴーメンガーストとそこに住まう変人たち。作者は元々文筆が本業ではないようですが、その独特の感性による冗長なまでの風景描写が非常に幻想的な世界を作り出しています。
第一部ではタイタスの宿敵となるスティアパイクが成り上がっていく過程が描かれましたが、この第二部ではいよいよ成長したタイタスと城の全権力を奪おうとするスティアパイクの戦いが描かれています。城の歯車の一つであることと引き換えに権力を与えられるという身分から抜け出そうとするタイタスと、城の歯車を動かす立場から全てを自分の物にしようとするスティアパイクの戦いは一見相反するようにも見えますが二人は根底で同じようなものを持っているようにも見えて興味深いです。権力者というのは平時においてはシステムの歯車でしかないわけですが、その歯車であることを望まない二人によってゴーメンガーストには静かな目に見えない戦いの渦が広がっていきます。
派手な見せ場は本当に最後の部分のわずかだけですが、その分様々な人物の心の動きや不思議な世界が余すところなく描写されていてとても読み応えのある作品です。